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管理人の日常・小話・プチ連載など、気の向くままに更新中
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その日は生憎の曇り空。

「…ふぅ」

これでは洗濯物が干せないなと落胆しながら、十四郎さんのいない部屋を開けて、換気を行う。
 
煙草なんて大嫌いなはずなんだけど、あの人の匂いだけは嫌いになれないことが可笑しくて思わず笑ってしまったら、突然、後ろから声をかけられた。

「何ニヤニヤしてんでさァ。華さん」

「!」

ぎょっとして振り返ると、心底呆れた様な眼で私を見つめる総悟くん。

「べべ、別に何も」

つとめて平静を装って言うと、わざとらしくため息を吐いて、彼はこう言った。

「土方さん、事故に遭ったらしいですぜ」

「…」

あまりに突拍子ない言葉に、私は数度瞬きをする。

だがしかし、聞き違いではないようなので、私もお返しにわざとらしくため息を吐いてみた。

「総悟くん…またそんな嘘言って…」

この子には、全く困ったものだ。

以前にもこの手の嘘を言われて、本当に焦って病院に駆け込んだ事がある。

この前のバレンタインだって、散々な目にあったのだ。

もーう、騙されて堪るか。

「今回はマジですぜ」

「…嘘」

「いや、本当に。

攘夷浪士をパトカーで追っかけてたら、横からトラックに突っ込まれたそうで」

「…!」


嗚呼、お願い
そんな真剣な顔で見ないで

(この顔は、どちら?)
(嘘?本当? )


ふと、幼い記憶が蘇る。

毎日毎日、嘘を吐いては村人を困らせた狼少年。

ある日、村に本当に狼が襲ってきて、それに気付いた少年は必死に皆に危険を知らせたが

しかし村人は少年の言うことに耳を貸さず、とうとう羊は全て食べられてしまった。


「ッ……」

ぞくりと、背筋を冷たい汗が伝う。

私は震える右手を自身の左手で押さえて、なるべく毅然と口を開いた。

「十四郎さん…今、どこに…」

「歌舞伎町三丁目の交差点じゃないですかねィ。

隊士たちも皆、そっち行ってまさァ」

「…」

ふと見回すと、確かに屯所の中は静かだ。

隠れてバドミントンをやる山崎君の素振りの音も、 お妙ちゃんにボコボコになぶられて泣き叫ぶ近藤さんの声も聞こえない。


ドクン、ドクン
心臓の音が、嫌に耳に響く。

真っ白になった頭を埋めるのは、あの人の顔。

「わた、私…ちょっと、行ってきます…!」

手にしたいた雑巾を落としてしまったが、そんなのには構ってられない。

  行かなきゃ
   傍に、あの人の傍に


頭は混乱し、思考は迷子になっていたが、足は迷いなく動いた。

着の身着のまま屯所を出て、なりふり構わず街を走り抜け、わき目も振らず黒いあの人の姿を探した。


歌舞伎町なんて、ほとんど行かないからどう行けば近道なのかも分からないけれど、足はただ動く。

すれ違いざまに人にぶつかり、もつれた足があらぬ方向に曲がった。

「きゃ…!」

しかし、身体を襲うと思われた痛みは訪れず、その代わり私の片腕が、力強い何かに掴まれた。

「おいおい。あんたそんなに急いで何?危篤のばあちゃんでも居んの?」

「は…え…?」

そこにいたのは一際目を引く銀色の髪を持った、死んだ魚のような目をした男性。

よほど私は酷い顔でもしてたのか、その人は怪訝そうに私の顔を覗き込んだ。

「…誰か人でも探してんのか?」

「!…あ、あの…

真選組の、副長を見かけてはおられませんか?」

「あ?真選組?」

「はい、あの私…あの人の所へ行かないと…っ」

声が涙声になってしまっているのは自覚しているが、そんなこと気に留めていられなかった。

彼は数瞬私のことをじぃっと見ていたが、ややあって私の腕を離し、今しがた彼が通ってきた先を指差した。

「あいつなら、さっきあっちの方で見たぜ。

なんか大変なことになってたけどよ」

「!…あ、ありがとうございます!」

このご恩は一生忘れませんと付け足して、私はそちらへとひた走った。


大変なことって…?
まさか、死んじゃ…

「っっっ!」

そこで、私の思考はスパークした。


あの人が
信号機
トラックは
隊士たち
攘夷志士の


目からは涙が溢れ、道もろくに見えない。

視界がブレてよく分からないが、すれ違う人が驚いたような顔をして、次々に道をあけてくれた。

ああ、人って優しいな。


見当違いなことを考えながら、気がつけば私は、一面桜が咲き誇る公園に来ていた。

「はっ…はっ…」


「あれー?華さんじゃないですか」

「山崎、く…」

名前を呼び掛けて、絶句した。

そこでは、真選組の面々が集まり酒宴を開いていたからだ。


「?…??」

「えっ!?華さん、泣いてる!?」

酔っているのか、顔が赤い彼は驚いたように私の額のあたりに手をやった。

意味が欠片も分からない私は、ただあの人の名を口にする。

「あの人、十四郎さ…十四郎さんは…?」

「え?副長なら厠行くって…「やーまーざーきぃー…」

しかし、彼の言葉を遮ったのは、まぎれもないあの人声。


「い゛っ!副ちょ…!」

「てめェ…誰に断りいれてこいつを泣かせてんだコラ…」

此方も相当酔っているらしい。

顔は普段はお目にかかれないほど赤く紅潮していて、視線は覚束ずにふらふらと泳いでいる。


「こいつを泣かしていいのは、お…「十四郎さんっ!」

同じように言葉を遮って、私は彼に飛びついた。


普段ならばこんなはしたないこと絶対しない。

でも、今だけは許してほしい。

ああ、だってだって、

「ゆ、幽霊じゃないですよね?生きてますよね?

あの、怪我は…?攘夷志士は?」

「あァ?なに言ってんだお前…今日は花見だって言ったじゃねェか」

「え…?」

極稀にしか見れない至近距離の彼の顔を、私は真っすぐに見た。

その瞳に自分の泣きはらした酷い顔が確認できるほどの至近距離だったけれど、そんなことはこの際気にしない。

は な み?

「!!!!」

騙された!


気付いた私は、自分の愚かしさに絶望したくなった。

悔しさがこみあげ、苦し紛れに彼の胸に額をくっつけて、酔っているのをいいことに甘えてやる。


十四郎さんが、その時どんな顔をしていたか、私にはわからない。

でも、背を摩る手は優しく、熱かった。

「大体、お前こそ今日は行けないとか抜かしてやがった癖に、突然どうしたってんだ」

「今日は…武州から、昔馴染みが遊びに来ることになってたんです…

でも、突然来れなくなったって連絡があって…仕方ないので屯所の家事を片すつもりで…」

「…で、なんで泣いてたんだ」

「……総悟君から、十四郎さんが事故に遭ったって聞いて…」

「あァ?」

「嘘かな、とは…思ったんですけど…

私、混乱しちゃって…なんにも考えないで、飛び出してきたんです…」

「…馬鹿野郎…」


心底呆れた様な声。

でも、それでも、

「俺がお前を置いていくわけねェじゃねェか」

「…ですよね」

背を摩る熱に、鼓膜を震わす吐息に、思い知らされる
やっぱり私は、あなたが好きなんです。





エイプリルフールねたと、お花見ねた。
久しぶり過ぎて文章が書けない…orz

5/10 書き直し




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私は、隊士の方が誰も起きていないような時間に起き、一人台所に向かった。

今日は言わずと知れたバレンタインデー。

許嫁として、十四郎さんに何もしないわけにはいかないのです。


―だって、バレンタインデーですもの―


「ふぅ…朝は寒いですね…」

台所の戸棚にしまわれた大量の板チョコを出し、鍋や包丁、そして一番大事な、

「…マヨネーズ、と…」

この日のために考え抜いたレシピを広げ、私は板チョコの袋を開けた。





「華さん」

「っ!」

私は、冷蔵庫に入れる為に持ち上げていたチョコレートケーキを、思わず落としかけた。

「…何してんですかィ」

「そ、総悟くん…驚かさないで…」

へなへなと腰が砕けて、咄嗟に、ケーキを落とさないようテーブルに置いた。

十四郎さんと出逢った時からの知り合いである総悟くんは、そんな私をどうでも良さそうに一瞥して、ケーキに視線をやる。

「こいつァ、バレンタインのですかィ」

「ええ…」

「へェ、土方さんに。

アンタもつくづく物好きですねェ」

呆れたように言いながら、総悟くんはチョコレートケーキをまじまじと見つめる。

そして此方を見ないまま、彼はぼそりと呟いた。

「土方さん、チョコレート嫌いじゃなかったですかねェ」

「…ちゃんと、ビターにしましたよ?」

「いや、甘いからとかじゃなくて、チョコレートそのものがでさァ」

「えっ、うそ!」

私は、すくっと立ち上がって、彼に詰め寄った。

「マジでさァ。いやぁ、こいつは失敗しやしたねィ。

まさか華さんが知らなかったとは」

「…」

「なんなら万事屋の旦那にでも、って…華さん?」

何も言えない私を不審に思ったのか、総悟くんはそっと顔に触れてきた。

でも私はそれを振り払って、顔が見えないように後ろを向く。

「ありがとう、総悟くん…十四郎さんに渡す前に教えてくれて。

嫌われるところだったわ」

「華さ…「隊士さんたちの分は、ちゃんと冷蔵庫に入れてるから、総悟くんもどうぞ。

私、やることがあるから」

私は捲し立てるように言って、乱暴にケーキをゴミ箱に投げ入れた。

そのまま逃げるように台所を抜け出して、自室へと向かう。


ああ、もう日が高い。

眩しい朝日を避けるように、私は廊下を駆け抜けた。


ばんっ!

「~…っ」

まだ雨戸も開けてない暗い部屋。

畳んであった布団に崩れるようにして、私は声を殺して泣いた。

私の知らない十四郎さんを、他の人が知っているのが嫌で、

そんな自分に腹がたって、悔しくて、

チョコレートケーキなんて大したことのない物だけれど、彼を想って作った時間が否定されて

まるで想いまで、否定されたようで。

「…十四郎さん…」

気持ちが落ち着くまで、私は布団に抱きついて泣いていた。


やがて涙が止まった頃、まだ一日が始まったばかりだったことに気づき、私は顔を拭いて立ち上がった。

朝ごはんの片付けをしなきゃ。

切り替えるために顔を叩いて、意を決して襖を開けた。

「!」

のだけれど、…


「十四郎…さん…」

「おう」

私の部屋の前で、十四郎さんは寝間着のまま胡座をかいて座っていた。

傍らに、台所のゴミ箱を置いて。

「何、してるんですか…?」

しかも片手はその中に突っ込まれていて、時折そこから、ぐじゃぐじゃのチョコレートケーキを掴んで口に運んでいた。

「朝飯」

「ちが…それ、捨ててあったでしょう?」

「勿体ねェだろ。誰がやったか知らねェが、ビターチョコにマヨネーズまで使ってあんだ」

「…マヨネーズが使ってあれば、あなたはなんでも良いんですか?」

口で皮肉を言いながら、私は顔を押さえてしゃがみこむ。

確かに、朝一だったからゴミ箱には何も捨ててないビニールだけが入っていて、そこに入れただけだからチョコレートケーキも不衛生になったわけではなかったけれど、

だからってまさか、食べるなんて。

「チョコ…嫌いなんじゃ…?」

「…好きとは言えねェが、嫌いじゃあねェよ」

「そう…ですか。良かった…」

後で総悟くんに一発喰らわせてあげなきゃと思いながら、私は手の平の下で笑った。


十四郎さんにハンカチを渡し、べとべとになった手を拭かせる。

少しだけ照れたような十四郎さんの顔が、くすぐったくてしょうがなかった。

「ありがとうございます。十四郎さん…」




私は朝ご飯の支度を済ませ、襷をはずしながら彼の部屋へと向かった。

スパン!


「おはようございます。十四郎さん」

未だ布団で寝ていた彼は、その音に最早慣れてしまったようで、ゆっくりと身体を起こす。

「…あぁ…」


―だって、許嫁ですもの―


彼の布団の隣に腰をおろしてその顔を見やれば、ものすごいことになった頭が目に入った。

「あらあら、凄い寝癖ですこと」

「…昨日、風呂から上がってそのまま寝ちまったんだよ」

「なんなら、これからは乾かしてさしあげましょうか」

「勘弁してくれ…」


頭をガシガシと掻きながら十四郎さんは大きく欠伸をひとつ。

私はその布団を畳むために、立ち上がった。

「隊士さんたちはもう食堂に向かっていますよ」

「…そうか」

「それから、今日は幕臣の方と大切な会談があるとか」

やはりその髪はいただけませんね、と言うと、困ったように彼は眉根を寄せた。

「面倒見すぎなんだよ。お前は俺の母ちゃんか」

「だって、面倒みずには居られない位あなたがだらしないんですもの」

「…」

バツが悪そうに溜め息を吐いて、彼は布団から立ち上がる。

私はそれを見計らって布団を畳み、最早自分にも染み付いた煙草の匂いを外にやるため、大きく窓を開けた。





「お前、真選組の女中だな」

「…正確には土方副長の許嫁です」

私がそう言い返すと、彼らはおかしそうに笑った。

何かの冗談だとでも思っているのだろう。


ああ、それにしても困りました。

非常に困っています。

なんでしょう、このベタすぎる展開。

私は今、ただ買物をしていただけだというのに。

そりゃあ、こんな人通りの少ないところを通ったのは宜しくなかったかもしれないけど、仕方ないじゃない。近道なんだもの。

(そんなに私の顔は知れ渡っているのかしら)(やだわ、彼に迷惑かけてしまう)
(ああ、違うわ。女中の格好のままだからね)


少しだけあきれたように出る溜め息は、勘弁してもらいたい。

私は不機嫌を隠すことなく顔に出して、人相の悪い男たちを見返した。

「私になにか御用?」

「ああ。ちょっくら、人質になってもらおうと思ってな」

そう下品に笑って、男は私の腕を掴む。

「嫌よ。これから帰って夕飯の支度をしなくちゃいけないんだもの。

あなたたちに手伝って欲しいくらいよ」

「ナメた口きいてんじゃ…」


「おい、コラ」

「「!」」

「…まぁ…」

私は低い低い声の主である彼を、人相の悪い男たちの背後に見た。

あまりの殺気に、先ほどまで心配そうに此方を見ていてくれた子猫たちまで居なくなっている。

「真選組の女中に、何か用か。てめェら」

「…いいい、いや、あの…」

どもりすぎて何を言っているか分からない男たちから私に視線を移し、彼は少しだけ表情を和らげた。

「何かされたか?」

「いいえ。なにも。

それにしても、来るのが随分早かったんですね」

「…たまたま通りかかったんだ」

私たちの会話を聞いて、先ほどの私の言葉が冗談じゃないと分かったのか、男は顔を引きつらせた。


「まっ、まさか、あんたの女だなんて、知らなかったんだよ!なぁ…!」

「…女?ふざけんな」

十四郎さんは鞘に入ったままの刀を大きく振るうと、彼らを次々と気絶させていく。

背後に男たちの山を築きながら、一切表情を晴らすことはない。

「こいつは、ただの許嫁だ」

最後の一人にそう言うと、彼は鳩尾に一撃、あっという間にのしてしまった。

恐らく抜かないのは私に血を見させたくないからだろうと思うと、不謹慎にも頬が緩んだ。

「…なに笑ってんだ」

「いいえ。何でもありません。

それよりも、会談はどうしたんです?」

「あんなもん、長ったらしくやってられるか。さっさと終わらせてきたんだよ」

「夕飯に間に合うように?」

「…違ェよ。それより、こんな暗い道を一人で歩くな」

「だって、マヨネーズが重たいんですよ。

このマヨネーズ、ここのお店にしか売ってないんですもの。

十四郎さん、ここのじゃないと嫌でしょう?」

「…」

苦虫を噛み潰したような顔をした彼は、私の持つスーパーの袋を持って、屯所に向かって歩き出した。


「こんな男の面倒は見飽きただろ。

さっさと武州に戻ったらどうだ」

「そんなの御免です。

私は故郷を捨てて、あなたに尽くすためにこんな所まで来たんですから」


彼の隣を、歩く。

つかず離れず、程よい距離で。

「逃げようたって、駄目ですからね。

私は、あなたの許嫁ですから」

「…後悔しても知らねェぞ」

「ええ。私は後悔知らずですから」

本当は知ってる。

彼がいつも、私を守ってくれていること。


だから私はあなたの傍にいる。

あなたに守られる限り、私は傍にいられる。

「…夕飯は頑張りますから、楽しみにしててくださいね」

だって私は

あなたが大好きなんだもの。

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